高齢者の小さな「やりたい」を支える尊厳介護:遠距離からでもできる日々の楽しみを見つける工夫
介護が必要な方の「やりたい」気持ちを大切にする尊厳介護
介護が必要になっても、私たちは誰もが「自分らしくありたい」「何かを楽しみたい」という気持ちを持っています。この「やりたい」という小さな願いを大切にすることは、その方の尊厳を守り、日々の生活に活力を与える尊厳介護の基本です。しかし、遠距離で暮らしていると、介護を受けている方の気持ちを十分に理解し、サポートすることが難しいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、介護知識が少なく、直接的なケアが難しい遠距離の家族でも実践できる、高齢者の小さな「やりたい」を支えるための具体的な工夫や心がけをご紹介します。遠く離れていても、大切な家族の「生きがい」を支える方法はたくさんあります。
1. 「やりたい」のヒントを見つける心のアンテナを張る
直接「何かしたいことはありますか」と尋ねても、「特にない」「迷惑をかけたくない」といった返答が返ってくることは少なくありません。これは、遠慮や諦め、あるいは漠然とした「やりたい」が見つからないことの表れかもしれません。そこで、遠距離からでも「やりたい」のヒントを見つけるための心のアンテナを張ることが大切です。
- 他の家族や専門職との連携: 離れて暮らす他の家族、訪問介護ヘルパーやケアマネジャーといった専門職の方々との密なコミュニケーションは非常に重要です。日々の会話の中で「最近、〇〇さんのご様子はいかがですか」「何か関心を持たれていることはありますか」と具体的に尋ねることで、思わぬヒントが見つかることがあります。
- 日頃の会話から読み解く: 電話やオンラインでの会話中に、過去の趣味、昔よく話していた話題、最近興味を示したテレビ番組やニュースなど、何気ない言葉の端々からヒントを探してみてください。「昔はよく庭いじりをしていた」「あの歌手の歌が好きだった」といった些細な情報が、「やりたい」への第一歩につながることがあります。
- 変化を観察する: 普段の様子と違う点、例えば笑顔が増えた時や、特定の話題に食いついた時など、感情の動きに注目します。それはその方の「好き」や「興味」のサインかもしれません。
2. 遠距離からでもできる「やりたい」実現への具体的なサポート
「やりたい」のヒントが見つかったら、それを実現するためのサポートを考えます。遠距離だからと諦める必要はありません。できることはたくさんあります。
- 情報提供と環境の提案:
- 関心事に関連する情報提供: 例えば、昔の趣味がガーデニングだったなら、植物の育て方に関する雑誌や、季節の花の写真を送ってみるのはいかがでしょうか。好きなテレビ番組やラジオの情報を提供するだけでも、日々の楽しみにつながります。
- 快適な環境づくりへの提案: 好きな音楽を聴くための簡単な操作のCDプレイヤーを贈る、座り心地の良い椅子を提案する、部屋に飾る季節の飾り物を送るといった、ちょっとした配慮が生活の質を高めます。
- 専門職との連携を通じた支援:
- ケアマネジャーやヘルパーに、本人が関心を持っていることや、試してみたいと思っていることを共有し、サービスの調整や地域活動への参加を検討してもらうことができます。例えば、外出支援サービスを利用して、思い出の場所へ散歩に出かけたり、地域の高齢者サロンに参加したりすることも可能かもしれません。
- デジタルツールを活用したコミュニケーション:
- タブレットやスマートフォンを利用して、オンラインで共通の趣味を楽しむ方法も考えられます。例えば、バーチャル旅行の動画を一緒に見たり、懐かしい音楽を共有したりすることです。遠隔で写真を共有し、話題を広げることもできます。
- 具体的な物資の支援:
- 手芸が好きなら材料を送る、読書が好きなら読みやすい大きな活字の本を送るなど、その「やりたい」を始めるきっかけとなる物資を届けることも有効です。
3. 尊厳を守る声かけと寄り添い方
サポートする上で最も大切なのは、本人の意思を尊重し、尊厳を守る声かけと寄り添い方です。
- 問いかけ方への配慮:
- 「何かしたいことはありますか」とストレートに聞くのではなく、「最近、何か楽しいことありましたか?」や「〇〇さん、昔は△△が好きでしたよね。今でも興味はありますか?」のように、過去の経験や現在の状況に寄り添ったオープンな問いかけを心がけます。
- 本人が「疲れたからやめておく」と言った時は、その気持ちを尊重し、「そうですね、無理せず休んでくださいね」と受け止めることが重要です。
- 自己決定の尊重:
- 「これをしてください」と一方的に指示するのではなく、「もしよろしければ、こんなこともできますよ」と選択肢を提示し、本人が選ぶ機会を提供します。
- たとえ結果的に何も行動しなかったとしても、そのプロセスで本人が考え、決定したことを尊重する姿勢が尊厳を守ることにつながります。
- 完璧を目指さない柔軟な心:
- 「やりたい」を完璧に実現することだけが目的ではありません。その気持ちに寄り添い、共に考える過程そのものが、本人の心の満足度を高めます。小さな一歩でも、試してみることで得られる喜びを大切にしましょう。
まとめ:遠く離れていても、心は寄り添える
介護が必要な方の小さな「やりたい」を支えることは、その方の尊厳を守り、日々の生活に彩りを与える、かけがえのない尊厳介護の実践です。遠距離にいると「自分には何もできない」と感じてしまうかもしれませんが、日頃の会話からヒントを見つけ、情報提供や専門職との連携を通じてサポートすることは十分に可能です。
大切なのは、完璧なケアを目指すことではなく、本人の意思を尊重し、寄り添う心です。遠く離れていても、心は寄り添い、大切な家族が自分らしく、そして毎日を豊かに過ごせるよう、私たちにできることから始めてみましょう。